『鉄腕ゲッツ行状記』感想
「鉄腕ゲッツ行状記――ある盗賊騎士の回想録」
ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン著、藤川芳朗訳
白水社 2,500円+税
宗教改革で有名なマルティン・ルターは同時代人、16世紀前半に活躍した中世ドイツの騎士、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの回想録。ゲーテの戯曲『鉄腕ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』のモデルとなった人物です。
ゲーテの戯曲では、農民戦争(1524年)の指導者として、自由のために戦う英雄として描かれています。(もっともこの件に関しては、「農民たちに指導者となるよう強要されて仕方なく・・・」と歯切れが悪い。)
しかしながら、実際は戯曲と異なり、口実を設けては「Fehdeフェーデ(私闘)」をしかけ、和解金をせしめたり、商人を襲って人質とし、その身代金を要求したりして荒稼ぎしていた「盗賊騎士」だったのです。本書は、そうした「フェーデ」や戦、喧嘩に明け暮らした日々を、この人物がいかに血の気が多い人物であったかを語っています。
「鉄腕騎士」と呼ばれるようになったのは、戦闘中に右手首を吹き飛ばされたが、精巧な鉄製の義手を手に入れ、ますます暴れまくったため。普通なら絶望してしまうところ、「まだいける!」と諦めない性懲りなさが受けて、この回想録が読み継がれていったのでしょう。(発見されている写本だけで10種類はあるそうです。)
なお、この鉄腕の精巧な図版が本書に載っていますが、この時代にこんな精巧な義手があったことにびっくりしました。
巻末の詳細な訳注のほか、各章の最初に訳者による簡単な解説が加えられており、ドイツ中世史に疎い読者にもずいぶんと優しいつくりになっています。(それでも登場人物の多さに頭がこんがらがるが)。
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