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『玉ねぎの皮をむきながら』感想

『玉ねぎの皮をむきながら』 ギュンター・グラス著 依岡隆児訳

集英社 2,500円+税

 現代ドイツを代表するノーベル文学賞作家、ギュンター・グラスの自伝。玉ねぎの皮をむくように、作家は自らの過去を明らかにしていく。本書の中でナチスの親衛隊員だったことを告白し、世界中に衝撃を与えた。
 あの年代で、ナチスの影響を受けなかった人の方こそ探すのが難しいだろう。とはいえドイツの戦争責任を説いてきた当の本人が、親衛隊員だった過去を今まで隠してきたのだから、擁護の声もあったにしろ、非難がごうごうと巻き起こったのも当然の成り行きであろう。
 グラスは、ニュース映画を見て前線で活躍する同胞に憧れ、いつかは自分も、と夢見る軍国少年の一人だったに過ぎない。Uボートに志願するも「若すぎる」ということで採用されず、17歳のとき、忘れたころに来た召集令状に従って行った先がSSの戦車隊だった、ということらしい。知らなかったとはいえ、ナチスのような犯罪組織の片棒を担いでいたことを恥じて、今まで沈黙を守っていたようだ。

 興味深いエピソードを紹介したい。
 終戦後、アメリカ軍の捕虜収容所で少年ヨーゼフと出会う。グラスはどうやら、この少年がヨーゼフ・ラツィンガー、現
ローマ法王ベネディクト16世ではないか、と思っているようだ。(この出会いについては、本書の中で繰り返し言及されている。)
 2005年4月、ラツィンガー枢機卿が新法王として選出された際、ヒトラー・ユーゲントだった過去も暴露された。制服を着た写真が世界中に出回った。グラスはそれを見て、あの「ヨーゼフ」だと思ったのではないか。
 よしんば、そうでなかったとしても、ラツィンガー氏もドイツ人として「ナチス」という負の遺産を背負っているということに、ある種の思いを持ったことは想像に難くない。本書が書かれたのはその翌年、2006年のことである。
突然の告白は、「ドイツ人の法王就任」が契機だったのではないか。これは、法王にあてた懺悔の書なのではないか。
 そんなロマンティックな妄想を、私は捨てきれないでいる。

 どうしても「告白」に目が行きがちであるが、『作家グラスの修行時代』としても読み応えがある。「このエピソードは、あの作品のこのシーンに使った」とか、どんな状況にあっても、食べ物はもちろん、女そして芸術に飢えていたというグラスに、芸術家としての性を見た。

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