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ヘルタ・ミュラー『狙われたキツネ』感想

『狙われたキツネ』
ヘルタ・ミュラー著/山本浩司訳
三修社  1,900円+税

ヘルタ・ミュラーはルーマニア生まれのドイツ系少数民族出身の女性作家。2009年のノーベル文学賞を受賞した。本書はその代表作の一つ。
原題は"Der Fuchs war damals schon der Jaeger"。直訳すれば「キツネはそのときすでに猟師だった」。

冒頭からなんだかリリカルな描写が続く。ポプラは空の熱気を切り裂く“緑のナイフ”であり、経血は“スイカの血”。ドナウ川に浮かぶアザミの綿毛は“国外逃亡の途上で撃たれた死者”の枕を思わせる。
しかし主人公アディーナが暮らす国は、「黒い瞳」と「カールした前髪」を持つ独裁者が支配する国。「黒い瞳」が組織した秘密警察(セクリターテ)が昼も夜も目を光らせており、国境付近には夜しか耕してはいけない畑がある。国外逃亡に失敗した人たちの死体が遺棄されている、その畑で出来た小麦から作られたパンを、人々は長い行列を作って買い求める。
たびたび停電するのでペンライトを持ち歩くような過酷な窮乏生活、贅沢三昧の特権階級、職権乱用や不正行為の横行、そして秘密警察だけではない、同僚、近所の人間、誰もが密告者になりうる、そんな閉塞した状況が綴られていく。

一介の教師であるアディーナも、学校の勤労奉仕についてちょっと批判的な発言をしただけで、秘密警察にマークされるようになる。
留守のあいだにキツネの敷物の足が切り取られていた。家宅侵入の形跡をわざと残しており、アディーナは精神的に追い詰められていく。

アディーナの友人クララは、パヴェルという妻子ある男と不倫していたが、男は秘密警察の職員だった。
ある日、クララのもたらした情報で、自分が逮捕者リストに載っていることを知ったアディーナは、友人パウルと共に田舎に身を隠すことにする。

いる終わるとも知れない逃亡生活の後、独裁者が逃げ出したというニュースを聞き二人は街に戻る。
市街戦による破壊の傷痕も生々しい街で、独裁者処刑のニュースを見てショックを受ける。

チャウシェスク処刑のニュースは私もテレビで見た覚えがあります。宮殿のようなところに住んでいたとか・・・。そうか、あれから20年か・・・。

ヘルタ・ミュラーのノーベル文学賞の受賞理由は「凝縮された詩と率直な散文によって、収奪された人々の風景を描いた」とのことですが、「なんで今さら・・・」感が無きにしも非ず。
しかし国家によって市民生活が監視されている状況は現在でも存在してますからね。
日本でも、身近なところでは、監視カメラが街のいたるところにあるし、テロ活動防止のため、という名目で外国人の指紋捺印や入国制限をしています。

ある程度はいたしかたない、って言えるレベルならいいけれど、一歩間違えればたやすく「監視国家」になってしまう状況が今そこにある。
受賞はそれに対する警鐘なのでしょう。

狙われたキツネ 新装版Book狙われたキツネ 新装版

著者:ヘルタ・ミュラー
販売元:三修社
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