ギュンター・グラス著『鈴蛙の呼び声』感想
原題は Unkenrufe(ウンケンルーフェ)。
ドイツの迷信に、「鈴蛙(ウンケン)は災い(ウンハイル)を呼び寄せる(ウンケン)」というのがあるそうだ。
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「たがいに伴侶をなくした男と女が、死者を悼む万霊節の日、花屋の店先で出会う。赤錆色のアスターを買い、墓地をめぐり、一緒に茸を食べる。こうしてアレクサンドラ(ポーランド人女性)とアレクサンダー(ドイツ人、美術史教授)の恋は始まった―。舞台はダンツィヒ、時は1989年11月2日。実にベルリンの壁の崩壊は一週間の後――。」
アレクサンドラの家族は、リトアニアのポーランド併合の折り、ヴィルノから逃れてきた。アレクサンダーの家族も同様に、敗戦でここグダニスクから西ドイツに逃れてきていた。故郷の地で眠りたい、その思いは同じ――。ということで二人は墓地を賃貸し、そこにかつてここに住んでいたドイツ人を埋葬する活動を思いつく。
計画はとんとん拍子に進み、多くの希望者と多額の資金が集まった。それを運営する組織は、老人ホームや病院の建設を行い、それどころか二人の思惑を超えて、ゴルフ場開発にまで着手しようとしていた。
ドイツ再統一、湾岸戦争、環境破壊、追放の世紀への考察、なども語られるけど・・・うーん、なんかすぐに聞き流せるテレビのニュースみたいにあっさりしてます。
以前の作品は、同じく時事問題を扱っていても怒涛の激しさがあったが・・・。
二人は、自分たちが考え出したこの活動から手を引くことを決意し、ドイツ人がポーランドの土地を占拠しようとしていると危惧の念を述べ、役員会で警告を発する。役員の側からは驚いたように、「いったいこの不吉な呼び声(ウンケンルーフェ)はどうしたことか」。
物語は、結婚した二人が新婚旅行の途中で交通事故死するところで終わる。「故郷の地で眠る」ための活動をしていた二人が、異国の地で眠ることになってしまったのは、何とも皮肉。
二人が活動が手に負えなくなって放り出したように、作者も上手くまとめられなくて主人公を死なせて終了させたような気がするのは私だけか。
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