ギュンター・グラス著『はてしなき荒野』
ギュンター・グラス全作読破プロジェクト(?)。ここまでたどり着きました。翻訳で924ページの超大作。読み終わるのに1ヶ月かかって、途中で放り出そうとしたこともしばしば。
1990年代のドイツ統一を題材にした作品で、ドイツで「文壇の法王」と言われるマルセル・ライヒ・ラニツキが本作を真っ二つに引き裂く写真が雑誌の表紙を飾ったそうです。1999年度ノーベル文学賞受賞。
さて。
テオ・ヴトケは同郷で誕生日も同じ小説家の「不滅の人」(作中では名は出されていないがテオドール・フォンターネのこと)に入れ込んでいて、周りから「フォンティ」と呼ばれている。
そんな彼には、若い頃当局をあてこするような発言をしたことや息子たちが西側にいることから、秘密警察官ホーフタラーが「つきまとう影」のように寄り添っている。
その年、「ベルリンの壁」が崩壊した。
娘マルタは西側から来た不動産会社社長と結婚し、シュヴェリーンに住む。しかし地上げ屋同然に公社の仕事をし、家庭を顧みない夫にいつしか離婚を口にするようになる。
ホーフタラーは、フォンティが戦時中フランスにいたときの恋人が産んだ娘の子・マドレーヌを連れてくる。まだ見ぬ祖父を思ってかフォンターネの研究をしていた。
そしてあれよあれよと言う間に東西ドイツが一つになった。
ウンター・デン・リンデンの大通りのあたりは、東西ドイツ統一の悲願達成を祝う群集で溢れかえり、夜空には花火がはじけ、この世紀の大事業をなしとげた喜びは「歓喜の歌」の大合唱となってベルリンの空を震わせていた。
ホーフタラーはフォンティに、信託公社での書類運びの仕事を見つけてくる。信託公社とは旧東ドイツの国営企業の民営化及び「解体」をする組織で、まるで資本主義が旧東ドイツを食い物にしているかのような事態を、フォンティは憂慮していた。
公社(かつての帝国空軍省)のパタノスタ(旧式のエレベータ)の中で、フォンティは信託公社の総裁と知り合う。二人は文学談義に花を咲かせるが、総裁は暗殺される。
新しい女性の総裁が来て、フォンティもお払い箱にされる。追い討ちをかけるように親友フロイントリヒ教授が自殺。フォンティは失踪を企てるが、ホーフタラーに阻止される。
そのことと妻エミーの自殺未遂のダブルショックで寝付いてしまう。実家に駆けつけたマルタも鬱病を発し、ホーフタラーが一家の面倒を見るはめになってしまった。
夫の事故死の知らせを聞いて、マルタは突然正気に戻り、入れ違いに来たマドレーヌにフォンティの世話を任せ、母を連れてシュヴェリーンに帰る。
孫娘の顔を見たとたんみるみる回復したフォンティは、ホーフタラーがお膳立てした講演会で熱弁をふるう。信託公社についての話で会場が最高潮に達したときに、ホーフタラーが叫ぶ。「信託公社が火事だ!」
それ以後、フォンティは孫娘ともに行方不明になる。懇意にしていたフォンターネ資料館あてに絵葉書が届いた。「とにかく、荒野には終わりがあるってことが、このわしには分かるんですよ・・・。」
原題Ein weites Feld(読み:アイン ヴァイテス フェルト)は、フォンターネの小説『エフィ・ブリースト』に出てくる父親の口癖、「あまりにも厄介な問題Ein zu weites Feldだな」から。
フォンティがフォンターネになりすまし(?)、100年まえのことを現在のこととして話すからときどきわけが分からなくなりますね。
もちろんこれは100年前のビスマルクの「ドイツ統一」と、現代のコール首相によるそれを重ね合わせる仕掛けでもあるのですよ。
「西」が「東」を吸収する形で行われた、あまりにも性急過ぎる「東西ドイツ統一」に、グラスは疑問をさしはさんでいます。
ああ、もうあれから20年もたってしまったのですね・・・。
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