ギュンター・グラス著『蟹の横歩き――ヴィルヘルム・グストロフ号事件』感想
ギュンター・グラスの小説、これでだいたいは網羅したはず。長かったな~。
1945年1月。避難民を満載した「ヴィルヘルム・グストロフ号」が、ソ連の潜水艦によってバルト海で撃沈した。ユダヤ人青年ダヴィト・フランクフルターに射殺されたナチス党幹部の名を冠したこの船は、戦前はナチス・ドイツが誇る豪華客船であった。
タイタニック号を上回る海難事故でありながら、複雑な政治情勢の中でタブーとなったこの事件を、今ごろなぜか取り上げるサイトが出来た。
それを立ち上げたのは、わが息子コンラートではないか?
しがないジャーナリスト、パウル・ポクリーフケは、船がまさに沈没している最中に生まれた。母トゥラから散々グストロフ号のことを聞かされて育ったが、それを書くことはなかった。
離婚した妻との間に一人息子コニー(コンラート)がいる。彼は父親よりも祖母に懐いていた。同じように聞かされたのだろう。
グストロフ号の悲劇と共に、ユダヤ人憎悪を煽るそのサイトには、そのうち「ダヴィト」を名乗る相手も現れた。ヴィルヘルムを気取るコニーと、オンライン上で丁々発止の論議を戦わせる。
ある日二人は現実に会うことにする。グストロフの故郷シュヴェリーンの街を一緒に歩き、かつて記念碑があった場所に行く。
「ダヴィト」がその記念碑の礎石に唾を吐きかけたとき、コニーは相手に銃弾を打ち込んだ。
かつて、ダヴィト・フランクフルターがヴィルヘルム・グストロフにしたのと同じように。
裁判が開かれ、コニーには7年の刑が処せられた。そこで明らかになったことは被害者はユダヤ人ではなく、かつての言葉を借りれば「純アーリア系」だった。
ネオ・ナチに傾倒した少年と、大量虐殺への贖罪の念に取り憑かれユダヤを神聖視するようになった少年。両親とも平凡な市民でそういう思想とは関係がなかった。少年たちは、インターネットでそれらの知識を仕入れていって、親のあずかり知らぬところで「化け物」のようになっていった。
そしてそんな二人を結びつけたのも、インターネット。
歴史的事件を扱いながら、現代の“闇”の部分を取り上げています。グラスは若い頃から小説に時事問題を取り上げていますが、75歳(当時)でこれを着想、というのはビックリです。
『犬の年』の悪魔のような少女トゥラが、たくましいおばあさんになって登場。バレリーナになったイェニーも出てきます。
『ダンツィヒ3部作』の登場人物が出てくるならば、オスカルが出てこないかどうか気になるところ。
でもさすがに出てませんでしたね。
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コメント
Guten Abend!
えらい長い事返事書けんですんまへん。
盆休み前になると殺人的に急がしなりますよって。
ずいぶん前に「シュヴァルツヴァルターキルシュトルテ」について、「家のレシピでは~~~」とカキコして、「ケーキ焼くんですか?」と言う御質問を頂きましたが、甘いモンが苦手な私は、スイーツ(ドイツスイーツに限る)レシピは持っていますが作る事はないです。
たいがいの料理はするんですけどね。
レアチーズケーキ程度のスイーツ(砂糖抜き)はレシピを暗記しているので何度か作っています。
50手前のおっさんの話とは思えんか、、、。
投稿: yanosch | 2011年7月28日 (木) 22時41分