マークース・ズーサック著『本泥棒』感想
私はこの本をドイツの本屋のベストセラーが置かれた棚で見つけた。死神と踊る女の子。そしてDie Buecherdiebin(本泥棒)というタイトル。中に描かれた不思議なイラスト。
『不思議の国のアリス』みたいな物語かな?
日本に帰ってきて翻訳が出ているかどうか調べたら、作者マークース・ズーサックはドイツとオーストリアから移民してきた両親のあいだに、オーストラリアで生まれた人で、作品も英語で書かれたことが判明。
内容も、おとぎ話どころか、語り手が死神で、ナチス政権下のミュンヘンに暮らす少女リーゼルの物語だった。
1939年1月、リーゼル・ミミンガーは一風変わった里親に引き取られる。隣家の少年ルディとはすっかり仲良くなった。
ある日、養父ハンスのもとを、ユダヤ人青年マックスが訪ねてくる。彼は、先の大戦で命を救ってくれた戦友の息子だった。一家はマックスを匿う。地下室に隠れ住むマックスにとって、リーゼルは“希望”、心を通わせられる唯一の人間だった。
リーゼルが最初に盗んだ本は、弟を埋葬した墓地の墓堀人が落とした本だった。それを見て文字を覚えながら、言葉はリーゼルにとってかけがえのないものとなっていった。
そして焚書の山から、町長の書斎から、リーゼルは書物を盗み、書物をよりどころとして自身の世界を変えていく。
ある日、ミュンヘンの町をダッハウ収容所へ向かうユダヤ人の行列が通りかかる。おもわずパンを差し出すハンス。しかしすぐにナチスに見つかりユダヤ人ともども鞭打たれる。
このことでゲシュタポに目につけられたと怖れたハンスは、マックスを逃がす。マックスはリーゼルのために『言葉を揺する人』という物語を書いた。
ハンスは徴兵されたが、骨折して家に帰された。
またユダヤ人の行進がやってきた。その中にマックスの姿があった。久しぶりの再会を喜ぶがすぐに引き離される。
ミュンヘンの街が空爆され、リーゼルの住む通りを直撃した。両親も隣家も人々も犠牲になったが、リーゼルは地下室にいて無事だった。リーゼルは死んだルディに、最初で最後のキスをする。
そして戦争が終わり、戦地から帰ってきたルディの父の店を手伝うリーゼルのもとに一人の青年が訪ねてきて・・・。
ナチス政権下の物語、と聞けば陰気な話だと思われるだろうが、決してそうじゃない。リーゼルもルディもマックスも両親も、人物が個性的で生き生きとしていて、むしろ面白い。
言葉の持つ力、書物の持つ力を認識させてくれる物語です。
マックスが書いた『言葉を揺する人』の挿話がすばらしい。
行進してきたマックスと再会したとき、そのことを踏まえて、リーゼルが「ほんとうにあなたなの?」と声をかける場面は感動的です。
日本語版の表紙は、メルヘンどころかSFチックですね。ドイツ語版の方が内容に合っていると思うんだけど。
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