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ジョナサン・リテル著『慈しみの女神』感想

図書館の貸し出し期限までに読み終えるために、大急ぎで目を通した程度ですが、感想です。

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元ナチ親衛隊の将校の回想録、という形をとった小説。なぜこんな残酷(であるだろう)物語にかくも美しい題名がついているのか?

「慈しみの女神」というのは、ギリシャ悲劇に由来します。

情夫と共謀して父アガメンノンを殺した母に復讐を、と姉エレクトラに懇願され、母親殺しの罪を犯したオレステスは、罪悪を憤るエリニュエス(復讐の女神たち)に追われた挙句、女神アテナの取り成しによって、エリニュエスに赦される。そしてエリニュエスはエウメニデス(慈しみの女神)に変わった、というもの。

主人公の親衛隊将校としての行動がメインとして語られる一方で、このギリシャ悲劇が、私的な、家族の物語として挿入されています。

マクシミリアン(マックス)・アウエは、ナチス親衛隊の将校として、ウクライナで「特別活動集団(アインザッツグルッペEinsatzgruppe)」に所属、ユダヤ人虐殺に携わる。
しかしそのことで精神を病み、クリミアに療養に行かされる。その後、カフカス侵攻に携わるも、上官の不興を買い、スターリングラードに配転になる。そこで頭に弾丸を受けるが、奇跡的に助かり、ベルリンに戻る。

夫とともにベルリンにやってきた、双子の姉ウナが「会いたい」と言ってきた。子どものとき、一緒に寝ているのを見つかり二人は引き裂かれたが、アウエは今でもウナを女性として愛していた。
同性愛者でもあるアウエは、行為に及ぶときに受身側を選ぶことで彼女と同化できると自分に思い込ませていた。
ウナは「あれは子どもの遊びだった」と言い、姉としての立場をくずさず、アウエの想いは報われることはなかった。

そんなとき母親を思い出し、思いたって南フランスに住む母親に会いに行く。ドイツ人の父とフランス人の母との間に生まれたアウエだったが、幼い頃に父親は失踪してしまった。幼子を抱えた母は、モローというフランス人の実業家と親しくなり、父親の死亡を裁判所に申し立てた後、再婚した。
アウエは、母が父を裏切ったと思い憎んでいて、もう何年も母とは会っていなかった。

母の元には、双子の子どもがいたが、その身元については口を濁すばかりだった。
ある朝アウエが目覚めると、義父モローと母が死んでいた。アウエはすぐさま家を立ち去る。
(後から分かったことだが、双子たちも姿を消していた。)

ベルリンに戻ると、今度はアイヒマンの下でユダヤ人労働者の問題に携わるようになり、アウシュヴィッツや各地の収容所を視察して回る。

そんな中、刑事が母殺しの容疑者としてアウエを訪ねて来て・・・。


いや、上手いですね。
主人公をあちこち配転させることで、ポーランドやウクライナでのユダヤ人虐殺や、スターリングラードの戦い、カフカス侵攻やアウシュヴィッツ、ベルリン陥落など、歴史上の出来事や人物を無理なく登場させています。ある意味サービス満点。歴史家も唸るほど史実に沿っているとのこと。(もちろんアウエは架空の人物だけど・・・。)


そしてもう一つの軸、ギリシャ悲劇を取り入れた家族関係の部分は推理小説のよう。

結局、母と義父を殺した犯人は誰なのか、母のもとにいた双子の正体やその行方は、などに対して憶測が述べられるだけで明らかにされず、尻切れトンボな終わり方であると言えます。

しかしその唐突な終わり方がギリシャ悲劇ッぽい、と言えなくもないかも。


それにしても、神出鬼没のベルリンの刑事コンビ、クレメンスとヴェーザーが、アウエ=オレステスを追うエリニュエスを象徴していたのかな・・・?

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