ジェラルディン・ブルックス著『古書の来歴』感想
久々の更新です。
1996年、100年前から行方が知れなかったハガダーがサラエボで発見された―― 。それをボスニア紛争の砲撃から救い出したのは、イスラム教徒の学芸員オズレンだった。
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、オーストラリアからすぐに紛争終結直後のサラエボに向かう。
「ハガダー」はユダヤ教の祈りや詩篇が書かれた書で、過ぎ越しの祭の正餐の席で使う本。今回発見されたのは実在する最古のものと言われ、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていた。中世のユダヤ教の教えでは絵画的表現を禁じていたと考えられていた。
鑑定を行なったハンナは、羊皮紙の間に蝶の羽の欠片やワインの染み、塩の結晶や白い毛が挟まっていることに気づく。
それを手がかりに、ハンナはハガダーの封印された歴史をひも解きはじめる……。
この小説は、実在する「サラエボ・ハガダー」を題材にしたフィクションです。羊皮紙の間にあった手がかりをもとに、第2次世界大戦下のサラエボへ、19世紀末のウィーンへ、17世紀初頭のヴェネツィアへ、15世紀末のスペインへと舞台は飛びます。そしてこのハガダーの歴史は、ユダヤ人迫害の歴史を物語るものでもあったのです。
この古書の来歴を辿り歴史を遡る謎解き部分と交互に、ハンナの身の上についても描かれています。
著名な脳外科医の母に反発し、父親を知らずに育ったハンナですが、母の交通事故をきっかけに、自身がユダヤ人のルーツを持っていることが判明します。
本書では、挿絵にも書かれた謎の黒人女性が、このハガダーの挿絵を書いた絵師だという設定になっています。
異教徒の女性だからこそ、因習に囚われずにこのような芸術を残せたのだ、ということなのかもしれません。わくわくする本でした。
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