アストリート・フライアイゼン著『ピアフのためにシャンソンを』感想
『ピアフのためにシャンソンを
作曲家グランツベルクの生涯』
アストリート・フライアイゼン 著 藤川芳朗 訳
中央公論新社 定価 2,940円
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名曲「私の回転木馬」「パダム…パダム」を作曲したユダヤ人作曲家ノルベルト・グランツベルクの伝記。
ガリツィアで生まれたグランツベルクは、両親の移住に伴いドイツ・ヴュルツブルクで少年時代を過ごす。幼い頃から音楽の才能を見せていた彼は、20歳そこそこで、ベルリンで指揮者として、また映画音楽の作曲家としてデビューする。それもつかの間、ナチスによって亡命を余儀なくされる。
亡命先のパリで、酒場のピアノ弾きの職を得るが、このとき、まだ歌手志望の少女にすぎなかったエディット・ピアフと出会っている。
そうこうしているうちにナチスはついにパリを占領、グランツベルクはマルセイユへと逃れる。そこで、今や売れっ子歌手となっていたピアフに拾われ、彼女の知人宅に匿われ生きて終戦を迎える。
二人は恋仲だったこともあるが、ピアフの破滅的な性格から長続きはしなかった。だが、ピアフに「私の回転木馬」など数々の名曲を提供するなど、関係はピアフの死まで続いた。
やがて世間ではロックが流行り出し、グランツベルクは音楽の世界から遠ざかる。
この忘れられた作曲家が1997年に「再発見」されたのは、同郷のヴュルツブルクの女性ジャーナリストのお手柄だった。この発見をきっかけに書かれたのが本書である。
本書で興味深いのは、やはりピアフとのエピソード、シャンソンの名曲誕生秘話などですが、1920年代のベルリンの華やかなショービスの世界についての描写なども面白い。
また、「再発見」された後、グランツブルクはヴュルツブルクで演奏会を行うなど、故郷に錦を飾ったり、再び音楽活動を始めたりして、満ち足りた晩年を過ごします。
歴史に翻弄された芸術家の一代記であると同時に、その時代を描いた一種の歴史書とも言えるでしょう。ナチスに祖国ドイツを追われたユダヤ人芸術家――こんな人は星の数ほどいたんだろうな。
彼が、自分のルーツに立ち返って作曲したオーケストラ版「イディッシュ組曲」、Youtubeで聴きましたが、エキゾチックでノスタルジックで壮大で色彩豊かなすごい曲でした。
シャガールの絵画が想起されるというか、ファンタジー映画のサントラになりそうっていうか(・・・褒めているつもりです。)
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