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エレン・ウルマン著『血の探求』感想

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  1974年の晩夏。大学教授の“私”は、元続き部屋で内部に隣室につながるドアがあるオフィスを借りた。
 ある日、そのドアの向こう側から精神分析医が行うセッションが聞こえてきた。“患者”は若い女性で、養子のため自分の出自がわからず、アイデンティティの欠落に苦しんでいた。“私”は息を殺して、産みの母親を捜す“患者”の話に耳を傾け続ける。

精神科医のドクター・シュスラーは患者に自分のルーツを探るように提案する。患者が養母を問い詰めた結果、彼女の母親はユダヤ人で、戦後直後、難民収容所にいたときに娘をカトリック系の養子あっせん団体に彼女を託したのだった。しかしそれ以上の手掛かりがなかった。

実はドクター・シュスラーは、父親がナチス親衛隊員であり、患者の話を聞いてに患者に対して罪悪感を持ち始め、その結果患者を混乱させてしまった。

いつしか彼女とその境遇にすっかりのめりこみ、ドクター・シュスラーに憤りを感じ始めていた“私”は、大学教授という立場を利用して、患者の母親らしき女性の名を突き止める。そして養子あっせんセンターの職員という触れ込みで、偶然手に入れた患者の女性の住所にあててそのことを伝えたのだった。
患者は、それを頼りにイスラエルに住む「母親」らしき女性を訪ね・・・。
患者はなぜ養子に出されたのか? “血の探求”の驚くべき結果とは――。

「ルーツ探し」がテーマですが、それが本人ではなく、盗み聞きした赤の他人が勝手に調べて…という点が異色。
しかも情報提供者である“私”と患者は一度も顔も合わせたこともなければ、名前も知らない。(挙句に調べたことが理由で“私”は散々な目に合うのですが。)
「盗み聞き」という、あまり褒められた行為ではないことをしているということが、精神を病んで休職中の“私”の心をさらに刺激して、病的な衝動に駆り立てるのでしょう。

“私”は精神病患者を多く出している家系の出であり、彼自身、若いころから精神不安定に苦しんでいました。“私”が患者に興味を持った理由は、養子であるということで、「家族」というしがらみや「血」から自由であると思えたから。
それとともに、患者がレズビアンであることも関係しているようです。
作中では、“私”もゲイであることが仄めかされており、同じマイノリティとして親近感を持ったのではないでしょうか。

しかし、患者がベルゲン-ベルゼン収容所で生まれた、というだけでもショッキングな出自なのに、それ以上の秘密が隠されていたとは。

ユダヤ人富豪の一族に生まれた母親は、ナチスが定めた「アーリア化」に対抗するために、工場の従業員のドイツ人の青年と結婚しますが、夫は早死に、夫の一族から裏切られ、ある場所に送られます。(その場所について、母親は決して口を割らない。)

その後移ったベルゲン-ベルゼン収容所では、当初国籍別に収容されていましたが、その中でもユダヤ人差別が起こったため、ユダヤ人のシオニストグループが中心となり、ユダヤ人はユダヤ人でコミュニティをつくるようになった。しかしシオニストたちの権力争いに嫌気がさし、娘はユダヤ人としてではなく生きてほしい、と思い、生まれたばかりの娘を手放すことにした、と彼女の母親は説明し、二度ともう関わらないで、と言います。
患者は失意のまま去るのですが、数か月してもう一度母親のもとを訪ね・・・。

本筋とは関係ないけど、パレスティナ移住を推進したシオニストのリーダーたちが、一人をのぞいてイスラエルには住まなかった、という話が印象に残った。

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