ローラン・ビネ著『HHhH プラハ、1942年』感想
HHhH = Himmlers Hirn heist Heydrich
ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる。
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「ナチによるユダヤ人大量虐殺の首謀者で責任者であった、ラインハルト・ハイドリヒ。ヒムラーの右腕だった彼は<第三帝国で最も危険な男><金髪の野獣>等と怖れられた。<類人猿(エンスラポイド)作戦>と呼ばれたハイドリヒ暗殺計画は、ロンドンに亡命したチェコ政府が送り込んだ二人の青年パラシュート部隊員によってプラハで決行された。そしてそれに続くナチの報復、青年たちの運命…。ハイドリヒとはいかなる怪物だったのか?ナチとはいったい何だったのか?」
(東京創元社ホームページより)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488016555
少年のころ、歴史教師だった父からハイドリヒ暗殺の話を聞いた語り手である<僕>は、フランス語を教えるためにスロヴァキアを赴き、そして数々の偶然が重なったこともあり、この事件に改めて興味を持つ。
ハイドリヒについては、私はナチスの高官の一人という認識しかなかったので、このような事件があったとは初めて知りました。
ハイドリヒはヒムラーの右腕として名を馳せていたけれども、暗殺が失敗していれば、ヒムラーよりも上にいっていたでしょう。ヒトラーが相当買っていたことは、ユダヤ人を絶滅収容所送りにして大量虐殺する作戦を、彼を偲んで「ラインハルト作戦」と命名したことからもわかります。
ナチスの理想を体現したかのような風貌、プラハの総督として見せた実務能力、そして何より、ユダヤ人問題の最終解決を考え出したのは彼なのだから。
作者は、「史実をもとにした小説」ではなくて、暗殺されるまでのハイドリヒの生涯、工作員を匿ったと濡れ衣を着せられたリディツェ村がどうなったのか、暗殺犯およびレジスタンスの最期がどうだったかを描く「再現ドラマ」を書きたかったようです。
憶測で書きたくない、誇張した表現は使いたくないと言いつつ、歴史オタクが蘊蓄を語るような語り口で、それは後半になるほど、空想たくましい、というか、自分はこう思う、こう書いたけどこう直した、などという「自分語り」というか、作者の介入が多くなってます。
あと、『慈しみの女神たち』を書いたジョナサン・リテルをそこはかとなくライバル視している気配があり、ちょっとにやりとしてしまう。
奇妙な題名は
HHhH = Himmlers Hirn heist Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる。)
という意味で、ハイドリヒの異名の一つだそうです。
各国でもそのまま採用されてますね。ちなみにオリジナル(フランス語版)。フランス語でも「小説」はRomanと言うのですね。
ドイツ語版はこれ。顔がモザイクかけられているのが不気味。
日本語版の装丁も、Hで埋め尽くされた構成が斬新。かなりイカしている。
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