夏休み文楽特別公演第三部『女殺油地獄』感想
借金をこさえた放蕩息子が、顔見知りの女性を殺して金品を奪う、という身もふたもない話。享保6年(1721年)に起こった殺人事件を元に書き起こされ、事件の2か月後に上演されました。当時の文楽とか歌舞伎は、再現ドラマとか、ワイドショー的なものでもあったのですね。(引用画像は、例によって配信されたものからのスクショです。)
〈徳庵堤の段〉
河内屋の与兵衛は、馴染みの遊女が別の客と野崎参りに出かけたのに腹をたて、野崎観音の門前で待ち伏せる。遊女の客と喧嘩になり、泥をぶつけあううち、与兵衛は通りかかった侍に誤って泥をかけてしまう。その侍に仕える与兵衛の伯父は、無礼に怒って甥を切り捨てようとするが、侍はこれを止める。
泥だらけの与兵衛は、そのままの格好で逃げることも出来ず、通りかかった豊島屋のお吉を頼って身なりを整える。河内屋と豊島屋は油を商う同業者で、与兵衛は姉のようなお吉に懐いていた。
〈河内屋内の段〉
河内屋の主人・徳兵衛(とくべえ)は、与兵衛にとって実の父ではなく、実父の死後、母のおさわが河内屋の使用人であった徳兵衛と夫婦になったのだった。しかし与兵衛は病床の妹を言いくるめ、実父が憑りついたことにして徳兵衛に家督を与兵衛に譲るように迫る。
徳兵衛はかつての主人の子である与兵衛に遠慮していたが、母親にまで手をあげる姿を見てさすがに看過できず、ついに与兵衛を勘当し河内屋を追い出す。
〈豊島屋油店の段〉
徳兵衛は家を追い出された与兵衛を心配し、「きっと頼ってくるはず」と豊島屋のお吉に与兵衛への金を託しに来る。続いて、母のおさわも同様に金を携えてやってきた。その様子を物陰から立ち聞きし、親の心を知った与兵衛は、何としても借金を返済しようと決意する。
素知らぬ顔して豊島屋に現れた与兵衛に、お吉は預かった銭を渡すが、借金返済の額には到底足りない。与兵衛はお吉に金を貸してくれるよう頼むが、お吉は「夫が留守でいないのにそれはできない」と拒否。他に金策の当てがない与兵衛は、お吉を殺して金を奪おうと、隠し持っていた刀で何度も切りつける。
逃げ回るお吉は売り物の油をこぼす。血と油に滑りつつ、与兵衛はお吉にとどめを刺し、金を盗んでその場を立ち去る。
暗闇の中、斬りつけた方も斬りつけられた方も、油で滑って這いずり廻る地獄絵図。ぬるぬると滑る様子が妙にリアル。(与兵衛の足がとんでもないところから生えているように見えるのはご愛敬。)
最初は「心を入れ替えて、親孝行するからお金を貸して」としおらしいことを言っていたが、次第に「俺の親孝行のために死ね」と盗人猛々しいことを言い放つ与兵衛が、本当に憎たらしい。
与兵衛には兄がいて、その子もまだ跡をとれるほど大きくなかったから、店を守るために母親がかつて使用人だった男と再婚したのでしょうけど、子どもにしたら嫌でしょうね。もしかしたらこれが与兵衛がグレた原因かもしれませんね。それが負い目となって母も義父も甘やかした結果がこれだったとしたら、巻き込まれたお吉が浮かばれない・・・。
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